カラオケ行こ!

先日、友人と会った際、彼女が読んでいる心理学関連の雑誌に映画『カラオケ行こ!』がお勧めされていたと教えてくれたので、見たいなと思っていました。

 

Netflixに上がったので早速見てみたら、、すごく良かった。

 

これは、男同士の純愛??

夏目漱石「こころ」の先生と私、みたいな)

美少年(斉藤潤)と美青年(綾野剛)にちょっとドキドキし、

思いがけないラストに、カタルシスも味わえて

スッキリ晴れた気持ちになりました。

 

綾野剛演じる成田狂児に、関西の男性の色気がよく出ていて、個人的に刺さりました。私は四国出身ですが、母が京都の出で、叔父たちが京都に住んでいた。若い頃は、関西弁独特のあの力の抜けた間のとり方に馴染みがなくて、なんとなく好きにはなれなかったのですが、あれは魅力だったんだ、と気がつきました。

 

X JAPANの『紅』という曲を、こんなに繰り返し聴くのも初めてで、、

毎回の成田の血管を切りそうな熱唱に、心臓から迸る血が連想されて、夏目漱石『こころ』の一節が浮かびました。

 

あなたは物足りなそうな顔をちょいちょい私に見せた。その極あなたは私の過去を絵巻物のように、あなたの前に展開してくれと逼(せま)った。私はその時心のうちで、始めてあなたを尊敬した。あなたが無遠慮に私の腹の中から、或る生きたものを捕(つら)まえようという決心を見せたからです。私の心臓を立ち割って、温かく流れる血潮を啜(すす)ろうとしたからです。その時私はまだ生きていた。死ぬのが厭であった。それで他日を約して、あなたの要求を斥けてしまった。私は今自分で自分の心臓を破って、その血をあなたの顔に浴びせかけようとしているのです。私の鼓動が停った時、あなたの胸に新しい命が宿る事ができるなら満足です。

夏目漱石『こころ』155頁 集英社文庫

 

読み返すと、ものすごいことを先生が告白してます。海外では『こころ』は同性愛小説だと認識されているらしい。

 

最近読んだ折口信夫の『口ぶえ』という作品は、少年の少年への恋が描かれていますが、主人公 安良も、想いを寄せる渥美から、鬼気迫る次のような言葉を投げかけられています。

 

「みんな大人の人が死なれん死なれんいいますけれど、

わては死ぬくらいなことはなんでもないこっちゃ思います。

死ぬことはどうもないけど、一人でええ、だれぞ知っててくれて、

いつまでも可愛相やおもててくれとる人が一人でもあったら、

今でもその人の前で死ぬ思いますがな、

そやないとなんぼなんでも淋しいてな」

折口信夫『口ぶえ 折口信夫作品集』92頁 宝島社文庫

 

あちこち調べた先で、明治大正期は学生の間で男色が流行したとあり、「流行て...」とちょっとびっくりもしましたが、この他、『仮面の告白』で有名な三島由紀夫には、榊山保というペンネームでゲイ雑誌に投稿した『愛の処刑』という小説があり、これは、"好きな教師に死を要求し、自らも死のうとする少年の話"らしい。(未読)

 

話が逸れましたが、『カラオケ行こ!』には、こうした文学の系譜に連なる切実なものが感じとれて、それが絶妙なセンスで、エンタメとして軽快にまとまっている。

そこから再び漱石の『こころ』を読んだりすると、『こころ』が衝撃的で凄いな、となる。

 

映画に登場する部活「映画をみる会」で岡と栗山が鑑賞している映画の古典名作にも同様の効果が狙われていそうです。そんな相互作用の起きる映画だと思いました。

 

追記:和山やまの原作漫画も手にとりました。すごく良かった。『ファミレス行こ』と『夢中さ、きみに』も。繊細な絵の表現(”友達になってくれませんか”の制服の生地の感じとか)、思いがけない伏線回収。ツボにハマりました。編集者の作家に対する熱量が感じられファンになりました。