数年前グリム童話の世界1 - okanagonの日記についての講義を受けたフェリス女学院教授、藤本朝巳先生の講演を再び聞きました。3.11をはさんでお話は震災後に東北でおつきあいのあった文庫や、図書館の方が、ご自分も避難所生活をされているのにまず第一声が「本をください」だった..ということからはじまりました。
テーマは「日本の絵本と外国(英米)の絵本の相違点」「絵本とそれぞれの地域の伝承文学の関連性」で以下のような内容でした。
「日本の絵本と外国(英米)の絵本の相違点」
まず両者は基本的に同じです。四角い紙、文字が横書きであれば左上から右下へ目線の流れにあわせて絵と文章が構成されています。「夜明け」という絵本で有名なユリー•シュルヴィッツさんは絵本作家を育てる授業も行っていて、
絵本は舞台のようなもの
とおっしゃっています。紙面に、•(主人公など)があった時、•が紙面上の上下左右にどう動くかで、どのような感情やイメージが想起されるか。。
(左→右)順の動き、文字の流れと同じ
(右→左)逆の動き、普通と違う展開、主人公がつらいこと、いやなこと、悲しいことに出会う
(上昇)喜び、嬉しい
(下降)苦しみ、悲しみ
(片隅)孤独、独ぼっち
(紙面から飛び出す)束縛からの解放
また絵の大きさも主人公の心理描写に重要な働きをしています。モーリス•センダックの
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一方、両者の違いは、日本の絵本の歴史とつながっています。日本には古く絵巻物もありますが、戦後の日本の絵本は、はじめ国語教科書のように左から右へめくり、縦書きで上から下、右から左へ文章が流れ、その目線にあわせた絵の動きで、紙面は縦長でした。それを松井直さん(福音館書店)が欧米の絵本を参考に、欧米と同じ横書きで、右から左へめくる形ではじめて試みました。それがこの
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「絵本とそれぞれの地域の伝承文学の関連性」
日本の「こぶとりじいさん」に対応するイギリスの
“The Legend of Knockgrafton More Celtic Faily Tales by Joseph Jacobs,1894"というお話があります。
研究によれば「こぶとりじいさん」は19世紀、日本からイギリスへ入ったということがわかっています。イギリスバージョンでは、背中にこぶのあるラズモアという男が主人公です。ラズモアはその醜い外見から人々にのけものにされていましたが、心は美しく、また草や藁でとても美しいカゴを編む特別な才能に恵まれていました。ある夜、仕事から疲れ切って家に帰る途中、ラズモアはノックグラフトンの塚から美しいケルトの歌(月曜♪火曜♪月曜♪火曜♪と延々繰り返す歌。旋律もお話についている)を耳にします。そしてつい、歌に合いの手(水曜♪)を入れると(彼には音楽のセンスもあったのです)それが妖精達の気に入って、瞬くまに異界へ連れていかれて背中のこぶをとってもらいます。
この噂を耳にした、やはり背中にこぶのある、生まれつきつむじまがりでずる賢いジャック•マドンという男が、遠くの街から母親と老婆に連れられやってきます。夜、、塚の前でジャックはラズモアに聞いたとおりに妖精の歌に合いの手を入れようとしますが、間があってない上に欲張って(水曜木曜)などと言ってしまったため、妖精たちの怒りを買って、ラズモアの分のこぶまで背中につけられて、体が弱って死んでしまいます。このお話は、文体も、それから背中のこぶという設定も絵本向きにはできていません。
余談ですが、「こぶとり」は「隣の爺型」に分類されるお話です。前者がよい人間でよいめにあい、後者がわるい人間でわるいめにあう。この他「花咲じいさん」「舌きりすずめ」なども同じ型です。韓国のこのお話
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また、日本の「だいくとおにろく」という話は、明治時代に東北に外国から伝わったということがわかっています。これが外来だとわかったきっかけは、日本の鬼というものが本来川を忌避するものなのに、おにろくは川の中から登場するため研究者が調べたからです。この話は北欧伝説が元話です。石の城をつくりたい王の命を受けて、自分の目玉を交換条件に、大工がトロルの助けで城を築くというものです。
このように一つの伝承なり物語が、他の国へ移動する場合、背景となる文化や自然、道具や物が異なりますから、こどもが聞いてわかるように物語が変化します。これは、児童文学など英米の作品の翻訳についても似たようなことが言えて、翻訳家はそれぞれに工夫をこらして訳をしています。(中には誤訳もあるようですが。。)藤本先生は若い頃、谷川俊太郎さんに絵本翻訳についてうかがった時に次のようなことを教わったそうです。
絵本の文字は、デザインです。位置、行数、長さ、書体をなるべく同じにする。
この姿勢は、絵本「スイミー」(谷川俊太郎訳)に遺憾なく発揮されています。藤本先生ご自身も、沢山の絵本翻訳をされていますが、翻訳をされる時に大事にしているのは耳で聞いてわかる「昔話の文体」なのだとか。先生は物語再話を行ったイギリスのジェイコブス研究が専門で、そのジェイコブスが言った
よきばあやが子どもに語る口調
が最もよいと思っておられるようでした。
今回の講演の内容は先生の著書
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会場には、藤本先生の訳されたこのような絵本が並んでいました。
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