はるかな国の兄弟

はるかな国の兄弟 (リンドグレーン作品集 (18))

はるかな国の兄弟 (リンドグレーン作品集 (18))

昨日たまたま立ち寄った近隣センターで見つけて読みました。夏に訪れたスウェーデンのユニバッケンでこの本に出会ってはいたんですが。アストリッド•リンドグレーン(1907-2002)の描く、死後の世界の物語。ユニバッケン : うそつき日記

宮沢賢治の「ひかりの素足」の兄弟との比較をと思っていたのですが、実際に読んでみると日本の今と実によく重なって感じられたりもして。まずその第一印象から。。兄弟が行った死後の世界、ナンギヤラには、美しく豊かな桜の咲く谷があります。けれどもそこはどうも世界の終点ではない。圧制者テンギルが存在しているのです。すでにテンギルの手に落ちた隣のバラ谷の人々は、搾取にあえいで貧しく不幸な生活を送っています。ヨナタン、クッキー2人の兄弟は2つの谷をテンギルから自由に解放するために活躍するのです。

テンギルが支配に使っている火の竜カトラは、古代の物語の生き物で、テンギルの持つ角笛の音を聞くと大人しくなる。カトラは人を食らい、カトラの火に少しでも触れたものは、すぐに死ぬか、じわじわ毒に蝕まれて死んで行くんですよね。(こうした状況は巨大な国家資金と結びついている原子力村と呼ばれるものや、原子力の火を想起させました。。)

戦いの中で、ヨナタンは角笛を奪いテンギルを倒すのですが、誤って谷へ角笛を落としてしまう。。こうなるとカトラの暴走はもう止まりません。(これも、人間にはコントロール不能原子力を思い起こさせる。。)兄弟は何とかカトラを谷へ落とすことに成功し、カトラは古代の物語の川の怪物オーバルとの壮絶な相打ちで死んで行くのですが。。ヨナタンはカトラの火を受けて死を待つのみになってしまう。。

ナンギヤラで死ぬと、その先の世界にナングリマがある。。そこへ2人で行くためにクッキーは真のライオンの心を持たなければなりません。かつてお母さんと暮らした世界で、火事の中ヨナタンが自分を背負って3階から飛び降りたように。。今度はヨナタンを背負って身を投げるのです。。「ナルニア国物語」に登場するライオンがキリストを表しているように、この兄弟にキリストが投影されているとも思えます(もとの題は、THE BROTHER S LION HEART(ライオンの心の兄弟)という意味のスウェーデン語)。けれどもそれは、北欧の古代の物語と融合して、キリスト教の天国と地獄という世界観ともまた違う多層世界が広がっているように感じます。。


ひかりの素足」では、兄弟は別の道を行きますが、「はるかな国の兄弟」は一緒。この違いも面白く感じます。
これはどんなことを意味するのだろう。。