グリム童話の世界1

 藤本 朝己氏 グリム童話の世界 〜昔話と昔話絵本のおはなし〜
という講演を聞きに行ってきました。藤本さんはフェリス女学院文学部教授、専門は19世紀イギリスでグリム兄弟のように昔話を集め「英国の民話集」「ケルティック フェアリー テイルズ」などを記したジョゼフ•ジェイコブスの研究です。

読み聞かせの会の関係で開かれた講演会でした。お話は、グリム兄弟の生い立ち(1785、86年生)から。1796年、役人であった父を亡くし、6人兄弟の長男次男であった2人はカッセルの叔母にひきとられそれから学問で身を立てようと熱心に学び、大学に入ります。そこでフリードリヒ•フォン•サヴィーニという伝承文学の先生と出会い影響を受けます。兄弟は1807年から町の中•上流階級の若い女性から話を聞き取り、1810年に最初の正確な記録をします。1812年「グリム兄弟によって集められた子どもと家庭のメルヒェン集」第一巻発行。1815年の第2巻発行の後、1819、37、40、43、57年まで計7回の書き直しをしました。私はその中で、1813年頃に兄弟が聞き取った農家のおかみさん、フィーマン夫人がとっても気になりました。彼女から聞いた話は、言語学者や古代ゲルマン文学者であった兄弟が最後までほとんど手を加えなかったということがわかっているそうです。これはフィーマン夫人が素晴らしい語り手であったということ。彼女はどんな感じの人だったんだろうなぁ。。町の市場に野菜を売りにやってきて、その帰りに兄弟の家によってメルヒェンを話したということですが、明るくて人がよく、おしゃべりが大好きで、日に焼けた、とても賢い人とイメージした私でした。。藤本さんの師、グリム童話の研究者小沢としおさんは、1819年に出版された第2版が、「素朴さがあり、少しだけ手がはいっていて一番よい」と話しておられたそうで、この版に聞き書きの雰囲気が良い形でのこっているのかなと思ったりしました。

フィーマン夫人の先祖はフランスからの移民でした。また兄弟が聞き取りを行った他の人たちの多くはそうでした。今ではグリム童話はドイツ古来のものでなく元話は、16世紀フランス、ジャック•ペローの話であることがわかっているそうです。この辺は、昨年NHKラジオで京都大学の高橋義人さんの「グリム童話からみた民話の世界」で、ペローの話との比較、物語の深みはグリムのほうに軍配があがるというようなことを聞いていたのと重なりました。ペローが上流階級の人たちに物語った話は、宗教改革によってフランスからドイツへと亡命した人々の家庭の暮らしの中で変容していき、それをグリム兄弟が採集再話したのです。深みは、異国で多くの苦難を受けたであろう人々とドイツの気候風土によって、また兄弟の見識によってもたらされたものだったのだなぁとよくわかりました。

それから話はイギリスへと移り、ジョゼフ•ジェイコブスが集めた話の中で、イギリスのシンデレラ物語と言われる「いぐさのずきん」のお話。いぐさのずきんってどんなものだろう?と興味をそそられました。父に追い出された娘が森でいぐさのずきんをあんで、自分の美しい服をそれで覆ってかくすのです。ケルトの渦を巻いた複雑な唐草模様がふと浮かんできました。。真実を中に秘めるものの覆いとして、ふさわしいような気がしたり。。このお話にもイギリスの風土を感じました。

お話は最後、最古のシンデレラ物語と言われる9世紀中国の「葉限(イェシェン)」でしめくくられました。まま母と姉にいじめられる葉限が、魚をかわいがり育てるのですが、それをまま母が殺して食べてしまうのです。すると魚の精、仙人が空からおりてきて、春の祭りへ着ていく青の衣と金のスリッパを葉限にもたらします。葉限はそれを春の祭りにつけていき、祭りの会場に落とします。それを王が見つけ、持ち主をさがしだし結婚します。継母と姉は岩の下敷きになって死んでしまうというお話。。

その他に、グリム童話の構造に関する主人公の分類、結末の分類、出目の分類など面白そうな話もあったのですが、これは次回にもっとくわしく聞けるのかもしれません。とにかく、久しぶりの聴講は楽しかった。。