岳物語

岳物語 椎名誠

本当は、今週はこれと思った本があったのですが、それが家のどこを探しても見当たらず、こういう時はご縁がないのだからとあきらめました。それでぼんやり本棚を見ていると岳物語の青い背表紙が目にとまりました。もし、現実に倫太郎のように育った子供が居るとしたら、それは椎名誠の息子、岳かもしれないなぁと思ったのです。

岳は両親ともに山登りが好きでついた名前。。その岳の保育園から小学校までの成長が、父椎名誠の目を通して書かれています。わんぱく坊主で保育園時代には近所の畑の芋を全部友達と掘りかえして帰ったりと事件もおこしますが、お楽しみ会で突然「ぼくはマキエちゃんがいっとうすきだ!」と宣言告白をしたり、とってもかわいい。。小学校では毎晩「おとう」とプロレスをやっていたためか、学校一喧嘩の強い男になります。そして釣りに目覚め、釣りの研究に日々没頭していきます。「おとう」が仕事の長旅から帰ってくる度に少しずつ変化している岳がいます。その岳を連れて、釣りに出かけるのがおとうの楽しみ。すでにプロはだしの知識を持つ息子に、ずぶの釣り素人の父は逆に教わる立場となります。そしてついに岳がプロレスで父を持ち上げる日がやってきて。。

親が「こどもに見棄てられる日」というのが「おとう」の友達仲間でまことしやかに語られるのですが、その日がくるんだろうか?とうろたえちょっと切なくなっている椎名誠の姿がユーモラスでもあり、男性なら自分と重ねたりもするでしょうか。。このエッセイでは、あまり登場してこないお母さんですが、仕事をしており、ときどき顔をのぞかせる姿は、おおらかで明るく、この家の要石だと思われました。振り返れば私の今いる場所も、人生のうちで最も楽しく充実した日々なのでしょうね。。毎日何かしら事件があり、忙しく、目が回りそうだけれど、最も輝いている時。そして、やがて子供に見棄てられる日がくる。それは健全な子供の自立とわかっていながら、私もじたばたしそうですが。。自分もかつて子供として薄情にもそうだったと思います。これも人生の過程として味わっていきましょうね。。そんな事を自分に向かって言いながら、ラジオから流れるWeekend Sunshineの音楽を聴く土曜の朝です。

関連する椎名誠の本:「海ちゃんおはよう」、「続岳物語」、「帰っていく場所」