夫の本棚

今日は11年目の結婚記念日。喧嘩もよくしましたが、仲良し夫婦でこれました。さて、夫も本好きですが、私とはまた一味違う種類の本が本棚に並んでいます。ほぉ〜なるほどなるほど。と、選ぶ本を通して夫の人となりがわかるような気がします。ゴーイングマイウェイで読書しているようで、影響をかなり受けているなと思う今日このごろ。そこで、今日は夫の本棚から一冊を選びました。

エブリン・フォックス・ケラー著 石館美枝子・石館康平訳「動く遺伝子;トウモロコシとノーベル賞

表紙裏の解説をそのまま引用します。「1983年ノーベル医学生理学賞を女性としてはじめて単独で受賞し、一躍脚光をあびた細胞遺伝学者バーバラ・マクリントック。60年間、ときには女性への偏見から安定した職を得られないまま、彼女は助手も弟子もなく、たった一人で斑入りトウモロコシの遺伝研究をつづけてきた。1951年に画期的な発見「動く遺伝子」説を発表したが、当時はまったく顧みられなかった。DNAの発見にはじまるその後の分子遺伝学の発展のなかで、そのぬきんでた先駆性が認められるまでには、実に30年の長い年月を必要とした。トウモロコシと心を通わせた対話を交わしながら、みちたりた孤独のなかを生きてきた独創的な女性科学者の人と仕事を、20世紀遺伝学の華やかな歩みのなかに描く力作評伝。」

夫と結婚した大学院の頃に読んだでしょうか。私にとって小学生のときに映画「マリー・キュリー」を見て以来の衝撃でした。単純な私は、こんな風に生きられたらという研究者の理想を、マクリントックに感じました。とても、真似はできませんが。。たった一人で孤独に研究を行うことが、どんなに難しいことか。科学の研究をする上では、そのSocietyに属して他の研究者と議論することがとても重要で、それがなければ、自分の考えの自家中毒に陥る危険があり、最新の研究動向の情報や着想を得たりすることも難しくなります。普通の科学者が普通に行えることを彼女が行えなかったのは、やはり1950年頃は、科学の分野において女性がマイノリティだったためでした。でも、彼女はそんな事をものともしなかった。それは誰と議論せずとも、畑をつくりトウモロコシを育て、トウモロコシと心を通わせるような対話をすることが、彼女の研究の喜びの源泉であり、仮説が正しいかどうかは、育てたトウモロコシが教えてくれたのです。妥協をしない彼女の姿勢、労働を通して得られる深い静かな洞察。。けれど彼女の仕事は全く評価されず、軽んじられる下りでは、同性として心が震えました。現代は1950年代に比べれば女性研究者の占める割合は増え、マイノリティを返上しつつあると言えましょう。しかし、女性が生活者として家庭を持ちながら科学をするのは今も簡単な話ではありません。家庭生活、出産、育児、介護、など様々な人生の場面で、大きく負担を負うのは女性だからです。でも、そんな事ものともしなかった。。といきたいところです。これを書いて、私は妥協だらけで、マクリントックのように一筋ではないけれど、「私の前に道はない。」そんな気持ちにまたなりました。で、これを持っていた夫はやはりいい人だ〜というごちそうさまな結論となりましたが、結婚記念日なんで、今日くらいは許してください。