風姿花伝第二

風姿花伝第二物学(ものまね)條々、も面白いです。ここには、能に登場する様々な役をどのような心もちで演じるかということが書かれています。それにしても、登場してくるのが、「女、老人、直面(面をつけない)、物狂(ものぐるひ)、法師、修羅、神、鬼、唐事」ととても面白そうな面々。昔、奈良の東大寺の前の池にちょうど紅葉の頃、能舞台がしつらえられて能が奉納されるのをたまたま通りかかって観たことがあります。背景の山の紅葉に、女の面をつけた演者が紅葉の枝を持ち錦の着物を着てひたと居るのですが、その場全体の空気を支配している感じがして、物凄かったというのを記憶しています。

どの役についても、面白いことが書いてあるのですが、その中でも「物狂い」は心にとまりました。。たぶん、私が東大寺で観たのも、女の物狂いではなかったかと思うのですが。。物狂いには種類が多くて、この道を得れば、あらゆる方面にわたってどんな曲にも力を発揮するだろうというのです。「親に別れ、子を尋ね、夫に捨てられ、(妻)に遅れる、かようの思ひに狂乱する物狂い、一大事なり」、とあって、昔も今も人の心の苦しみは根本的には変わらない気がしました。うまい人でも、こうした違いに心をいたさず、ただ一辺倒に狂いを演じても、観る人を感じいらせることはできない。思いの故の物狂いであるので、いかにも物を思う様子を本意にして、狂うところを花にして、心を入れて狂えば人の心に感じ、面白い見所も必ずある。こうした結果、人を泣かせる所があれば、それが無上の上手と知りなさい。。