トンネルをくぐって

仕事場近くの図書館で、赤毛のアンを探していて、これを見つけてしまいました。ドリス•レッシングは「5番目の子ども」を読んだことがあったのです。あの何ともいえない、読後感を思い出して、借りずにはいられませんでした。モンゴメリーの世界とはまるで違うドリスの世界、どちらも好きなのです。。

ドリス•レッシングの珠玉短編集 ドリス•レッシング著 羽多野 正美訳

この短編集の中で、惹かれたのは「トンネルをくぐって」と「十九号室へ」。。「トンネルをくぐって」は母と息子が夏のビーチで何日かを過ごす物語ですが、母親の預かり知らない所へ1人でむかう少年とは、確かにこういうものかもしれない。。と思いました。息子が母親に秘密をもつとき。。イニシエーションを感じる作品でした。それは、海の岩場の水底にあいた、深い穴をくぐっていくという地元の子どもらの遊びなのですが、慎重に何日もかけて準備し少年はたった1人で挑むのです。少年と母親の距離は、あっさりしたもので、少し淡白すぎやしないかとさえ思いましたが、こういう距離感が息子を精神的に殺さないのではないかとも思います。たぶん、ドリスはそういう考えをもった人だったでしょう。。

また、この作品から大江健三郎の「ウグイの話」が思い出されました。健三郎も、少年の頃、故郷の川の岩場の穴に頭をつっこんでその向こうのウグイの群れを見ていて頭がはずれなくなり、危うく溺れかけるのです。しかし、それはぐいと強引に引っ張る何者かの手によって救われ、健三郎少年は死ぬ事はなかったのですが。。その手が母ではなかったかと彼は推察していますが、健三郎は怒ったように河原を去って行く足音を耳にしただけで、救い手は謎のままです。。